生きてるだけで、ワーイ

鳴門煉煉(naruto_nerineri)の日記

アニサキス

 

 パン屋。祝日。予報では晴れだったが窓の外を見るたび雪が降っていた。

 閉店後、工場で作業。陸奥湾で店長が釣ってきたという鱈を揚げ物にするため下拵えをする店長とKさん。自分はふたりに背を向けて洗い物、とくに相槌も打たないがふたりの話を聞いてはいる。「アニサキスだ—」と店長が言うので洗い物する手を止め、見せてもらう、糸というには太いけれども紐というには細い、唯我独尊アニサキス幅。はじめて見た。4年くらい前、パン工場に勤めていたときは食中毒予防のため刺身などナマモノを食べることは原則禁止されていた。その頃から憎しみが募りずっと探していたのでうれしい。まだ見たことのないものに毎日遭遇したいと思うがそれは贅沢なことなのだろう。アニサキスで思い出し、ランタンパレードの『ケツニキス』聞く。ファンクがファンクであったときから。

暗き生き血を流しけり

 

 パン屋休み。晴れ。給料日。ワーイ。

 ほかに履くものがないので股に穴の空いたズボン履き、母とふたりで出る。昔の浜崎あゆみといえば損傷の激しいジーンズを着用しており破けたところから彼女の尻が見えていたものだが自分は浜崎あゆみではないので絶対に隠したい。気にしながら歩いていると母が長靴から脚をゆっくりと抜き、ズボンの膝に大きく空いた穴を見せながら「あゆ」と言ってきた。

 みちのく銀行でお金下ろし郵便局でゆうちょの通帳に入れる。母にいくらか渡してとりあえず財布に3千円残す。母とスーパーふじわらで買い物、野菜が高くなった。水曜なので千円以上の買い物で卵は1パック58円。

 一度帰宅してふたたび出る。新町のガスト、いつも通りかかってはいるが久しぶりに入った。高校のときにバイトしていたデイリーヤマザキで朝勤だった女性が働いておりべつになんでもないのだが気まずい。名前を最後まで思い出せずもやもやしたまま出る。

 寒さに悪態つきながらスクランブル交差点渡る。上着のポケットに手をつっこみ、肩をすくめた格好で歩く。自分より背筋伸ばして歩くおばあさん。さくら野百貨店のショーウィンドウにはピンク色のバッグと緑色のバッグが飾られている。春が来たんだ、と思う。

 それでも寒さに悪態つきながら県庁のあたり歩く。高級バッグの色味など知ったことではない。赤十字の建物4階の献血ルームへ入ると血の洪水というくらい混んでる。遠心分離を使って成分のみを取り出し血をふたたび体内に戻す、という成分献血を求められたが寒さのためか血管が貧弱になってるとのことで負担の少ない全血献血。それほど求められてもいないBの型の血液。期待に添えなくて申し訳ない気持ち。自信喪失。無料の菓子やジュースにも手が伸びない。歯科医院のそれ、のような椅子に座り備え付けられたテレビでNHK俳句見ながら血を抜かれる。小野あらたがゲスト。

 水筒の暗き麦茶を流しけり

 いい。隣の人は『相棒』の再放送を見ていた。右京さん。手を強く握っては緩めてを繰り返すたび、血が人工的な流れに乗っていく感覚がおもしろい。終え、恍惚としていると看護師に「前回もバレンタインの時期に来てますね」と言われる。チョコでなく血をささげる己のかっこよさ。帰りにチョコもらった。

 夜店通り。フォーションの店主は腕を組んで眠っていた。シネマディクトへ。ちょうどよくやってた、16時の回だけどもレイトショー扱いで1200円。キム・ヤンヒ監督『詩人の恋』、見てよかった。自分はドーナツの穴が好きではない。

 勤め終わりでやたら歩くのが速い人らと一緒になって帰宅。太宰の旧制中学時代の成績表が公開された、というニュースに「文武両道の実像」というテロップ。なぜか見ているこちらが恥ずかしくなる。

空転する

 

 パン屋休み。予報はずれて晴れ。7時半すぎ起きる。夢に出てきた水谷豊、というか杉下右京の余韻。バス乗り場で右京さんに親切にしてもらった。

 洗濯機回してる間に風呂。骨密度の低い骨、みたいな声でちあきなおみ歌う。風呂からでるとちょうど洗濯もおわり、干す。

 家を出ると雪。機関区通りを歩く。ずっとまっすぐ続く道に飽きたので中央大橋の下、雀荘「詩(ポエム)」の角を右に折れ、ケーキ屋のガラス窓に秩序なく張り巡らされた「お客様感謝デー 生チョコシュークリーム100円」の誘惑に打ち勝って青森松竹アムゼ。ミライのチケット1枚つかう。芳賀俊/鈴木祥監督『おろかもの』。見てよかった。終え、サンロード1階にある画材屋へ行きベニヤ板2枚と紙2枚買う。しばらく行ってなかったが店の人が覚えてくれていた。雪に濡れるといけないからと買った紙をビニールできれいに包んでくれ、さらにはポイントカードを忘れたにもかかわらず5%引きしてくれた。倭絵で表現したいやさしさ。

 杉下右京から受けた啓示を思い出しバス。自分は誰にも親切にできなかった。駅前まで乗るつもりだったがあまりにも混んでたので県庁前で降りる。210円。支払う小銭の数が3枚で市営バスとしては最少なのだがやはり手間取る。バスを降りるとき手際よく支払いをできた試しがない。長島地下道を通って国道挟んで県庁側へ。地下はいい。

 すこし歩いて古書らせん堂へ。リュックからはみ出してる、ビニールで包んでもらった紙の筒を三浦さんに見せる。柄澤齊『銀河の棺』。木口木版画家のエッセイ。からさわひとし、読めなかった。ラジオネーム、ゴッホ大好き人間さんからのリクエスト。会計してもらい、さっき流れてたラジオからギターの話、三浦さんの謙虚さを前に小田和正のサポート云々言ってる自分が恥ずかしいと思いながら言うのをやめない。

 らせん堂を出て新町通り。昼飯を食べ損ねてお腹すいたのでガストと迷ったがドトールでゆで卵と肉が挟まったパンとコーヒー。読書する人に擬態。

 家まで歩く。雪がやんだあとの空がいちばんいい。凍った道路でタイヤの空転する音を残して走り去るタクシー。自らを飾り立てるということを罪のように感じもするが、それすらも自分にとっては切なる真実であり、また真実の最外層に過ぎない、と考えるのはどうだろうか。その膜は他者との関わりの中で容易に破られ向こうから核心へ近づいてくる。曖昧な自我の領地を互いに探り侵しあう。自分と、それ以外がこの世界に存在している意味。

猛者

 

 雪。ときおり風強く吹く。湧然する猛者達々。

 F川小学校近くのごみ集積所、週に2日ある燃えるごみの日のうち、月曜に集ってるカラスどもはとりわけ感じが悪い。今日もいた。いやだなと思っていたらちょうどタンクローリーが徐行してきたのでその陰にかくれながら通る。

 夜、父に車で迎えにきてもらう。操車場跡地、線路を挟んで向こうの空が赤く染まっている。駅前にあるパチンコ屋の大型ビジョンの明かり。雪と風強くなる。吹いでら、フェデラー、とだじゃれを披露したらほめられた。

 21時から『監察医朝顔』第13話。朝顔さん、ヤマザキ春のパン祭りのシールを集めていた。最終回までに白い皿が食卓に登場するか。22時からチャンネル変えてEテレ見ながら床に眠ってしまった。

カフェオレ

 

 東京オリンピックの偉い人の発言を海外のメディアが「性差別の高速道路を時速320キロで走行」と報じた、というニュースを見る。これはあくまで言い方の話だが道を逆走してる、というほうが納得がいく。

 しかし粋でありたいものだ…と思いながらコンビニで温かいカフェオレ買う。自分はコーヒーに白いものを入れる人間の気が知れないが知れないからこそ知ってみたくもなる。注がれたものを見ると泡だった。泡を食うというのは初めてカフェオレと対峙した人間が生み出した言葉なのか。立ち尽くしていると店員が来て「それで合ってますよ」と言われる、やるせなさ。

 夜、『いつまでも生きていたい日記』を書かれてる宮本さんと電話。「…ってトルストイも言ってましたよ」

火花

 

 雨。そういえば4年ほど前、「2月に雨が降るところを見たことがない」という書き出しで文章を書いたような気がする。2月に降る雨を見てみたい、だったか。以前は冬の雨に情緒、みたいなものを感じていたが今ではそれもなくなった。それに対して感傷的になるということもない。いやそんなこともないか。ズボンの股のところが擦れて裂けた。太い脚で歩きすぎた。

 帰り、通りかかった焼き鳥屋の店主が頬杖をつきながらテレビを見ていた。視線だけが上を向いている。ペーソス。

 帰宅して部屋にいるとどこかの家の屋根から雪の落ちる音。やたら長く続くので外を見ると雪が落ちているのではなくて花火が上がっていた。海のほう。空気が澄んでおり夏のよりも好きだった。最後の火花が消えたあと、どこかの家の屋根から雪解け水が滴る音が残った。

 シャワー浴びようとすると除雪車が後退してくる音。着替えて外に出、沿道に積み上げていた雪を父とふたりで30分ほどかけて道路に放り投げる。たばこを咥えながら片手でハンドルを操る運転手。

 

Always love and peace それが

 

 雪。線路沿いを歩いていると線路の上に架かってる電線みたいなのがじりじり鳴っているのが気になる。昼過ぎから晴れた。日が長くなったのが感じられてうれしい。パン屋はなんとか完売した。

 夜、べつに作品を見たり読んだりしたわけでもない母が『鬼滅の刃』のシールがついたウエハースを買ってきてうれしそうにしてたので食べる。母と弟が煉獄さん、父が炭治郎のを当てていたので自分も期待して袋を開けたら「鋼鎧塚」というよくわからないキャラクターだった。

 YouTube狩野英孝が『サザエさん』を熱唱する動画を4回見る。おもしろい。「いささか眠いね 午睡」だと思って聞いてたら「いささか眠い目 こすり」だった。