生きてるだけで、ワーイ

鳴門煉煉(naruto_nerineri)の日記

へば!

 

 7月17日日曜日。

 9時前歩いて出る。すれ違う人々から向けられる視線に痛みを感じつつ浪館通りのローソンへ。焼けた肌のかれんちゃん。久しぶりに会えてうれしい。かれんちゃんがやっている畑で草むしりする約束をしていたのだが雨。それでも私は汚れてもいい服装こと「SUTEKI NA AOMORI」とプリントされたTシャツを着、ワークマンの長靴と使い古した軍手を持ってきた。しかしかれんちゃんはジーンズにラルフローレンのポロシャツに白いスニーカーといった爽やかな出で立ちだったので面食らう。

 かれんちゃんに車出してもらい棟方志功記念館へ。敬礼するかれんちゃん。自分は脱帽して一礼。庭に植わっている椿の実を眺めてから中へ。入館料550円。米倉涼子が「入館料が安すぎる!」と叫んでいる。夏の展示『模様化の魅力 大自然・縄文』。「自分の作品にしては珍しく、悪いところを補うようにして制作した」という趣旨のキャプション、改題、改刻を経た『宇宙頌』に足を止めてあれこれ言い合った。

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『鐘渓頌』に描かれる女人の乳房の向きの乱れに圧倒される。『華狩頌』の前で「憤りを感じていますか?」とかれんちゃんに尋ねられた。私は、記念館がなくなってしまうことをすっかり忘れてスコさんの仕事に感じ入っていた自分に驚いた。板画の前に立ち、一生のうちで、自分も自分の仕事をしたい、と思っていた。10時から上映のスコビデオを鑑賞。自分は一番後ろの席に着く。かれんちゃんが笑みを浮かべながら時々こちらをふり返った。見終え、ACACで開催中の『八甲田大學校』のチラシもらって庭へ出る。濡れたおしり。

 記念館の斜向かいにある中央市民センターのプラネタリウムへ行きたかったけれど休館日だった。

 堤川沿いから観光通りへ出、山に向かって走る。ACAC(国際芸術センター青森)へ。景観観察研究会による『八甲田大學校』見る。

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古来、芸術と科学は一体であり、僕ら人間の生きる術であった。人は進化の過程で自然を観察し、その成果を表現する力を獲得した。たとえば、うつくしい動物を壁画に描きながめること。そうやって僕らは自然のことを四六時中考えたり話したりすることで、狩りに成功し、危険を回避し、後継者を養成してきたことだろう。しかしいつしか、僕らは自然観察の能力を忘れ、日々の忙しさと情報の海におぼれる現代の暮らしを送るようになった。

だから僕ら景観観察研究会は、いまここ青森の地で、自然について調べ、体験し、表現することをはじめた。芸術家と科学者がフラットな関係性で、こころにつき動かされるままに活動することにした。ここが、大自然と人間のことを考えるスタートラインである。

 ...タイピング練習かと思った。が、まあそんな感じの展示で全体的にとても興味深く見た。とりわけ、青森県産のスギ材を用いて青森県の全景を25000分の1縮尺のジオラマで表した『青森県立体地形模型 / 山本修路』は、その技術といい執念といい強く心に残った。北前船に関連した文化財も一緒に展示されていたが、巨大模型に興奮するあまりまともに鑑賞しなかったことが今更悔やまれる。「北前船という存在が、各地の産業を興し、文化を運んだこと。それが現在にも影響を与え、青森が形作られていることは想像に難くない。」私の乏しい想像力では難かった。

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生態学者である大庭ゆりか氏の『応答 response』は、LED、蛍光灯、白熱電球のそれぞれ異なる波長が含まれる光を倒木に当て、それらが生態系に及ぼす影響を記録観察する展示でこちらも興味深い。

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板津悟氏の『「八甲田山」拡大版地図』と石版石など。寄生虫が森の最小単位なのだろうか、と思ったり。設営を担当したKさんにも会えた。また来たい。

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 雨が弱まってきたような気がするのでかれんちゃんの畑へ。立派な畝が3本。数種類のミニトマト、中玉のトマト、ナス、毛豆、サツマイモ、きみなど。畑に熟れた梅の実が落ちていた。野菜を愛でるかれんちゃんを見てすてきだな、と思った。「これ雑草ですか?」と尋ねたら「バジルです」と言われた。バジル摘み取って匂いを嗅ぐ。マスクの中にしまっておこうかと思ったがよしとく。畑のそばにある東西にのびる小径を見せてもらう。かれんちゃんの畑にいる間は自分も生きている感じがたしかにして気持ちよかった。

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 国道を西へずっと走り青森駅前へ。マロンで昼食。ジャマイカンカレーとコーヒーのセット950円。おいしい。かれんちゃんはにんじんが嫌いなので野菜スティックのにんじんもらう。食べながら話しているうちに、自分の偏っている考えをほぐしてもらったような気がしてよかった。「SUTEKI NA AOMORI」と書かれたTシャツを着ておきながら「バカ寺バカ彦」とか言ってしまったのは反省している。

 歩いて出る。八甲通りの交差点をらせん堂に向かって投げキッスしながら渡る。三八五タクシーの運転手が私の渾身をキスを拾っていった。

 ギャラリーNOVITAへ。『Tableauな世界 二次元の窓から見える自由と平和』見る。布や絵やアクセサリーの合同展示。かれんちゃんの友達のあすかさん。冬は絵を描き、春から秋にかけては農業旅人をしているというその人の腕は鋭く、白いTシャツに映えていた。笑顔のよく似合う人。及川泰宏氏の海や空をモチーフにしたパステル画や水彩画を見る。海の絵について、これは写真に写してそれを見て描いたものなのか及川氏の奥さんに質問した(及川氏本人は「焼き芋おじさん」と談笑中であった)。答えは違う、とのこと。絶えず姿を変え続けるものばかりを対象にすることが気になった。形を描くのではなく、時間を描く試みのように感じた。さらさらのインド綿の布に触っていたら4万円の値札が付いていたのでそっと離れる。

 窓越しに手を振ってギャラリーを後にする。ダイワロイネットホテル下のローソンで自分が用を足している間に、かれんちゃんが跳人用の福財布を普段使い用として購入していた。

 古書らせん堂へ。いらっしゃいませー、と裏声で発しながら入る。三浦さん。3人で会うのは久しぶりなのでうれしい。来る善蔵忌に向けて『葛西善蔵忌に寄せて』という豆本を手にしながら話す。べつに善蔵は読まなくていい、と。石坂洋次郎の『青い山脈』、あれは葛西善蔵とは対照的な青春小説だ、とも言っていたけど今は読まなくていいらしい。三浦さんがドミノピザのチラシを持ってきて「食べたことある人ー」と挙手を促した。かれんちゃんが手を挙げたがピザの味はいまいちとのこと。三浦さんは今後もテンフォーがいいと思う。たくさん話したことのほとんどを忘れてしまった。とても楽しかった。

 浪館通りのローソンまで送ってもらう。傘立てに自分の傘が突き刺さっているのを見つけた。今朝ここに傘を忘れていったことにすら気がついていなかった。押印した付箋を柄の部分にセロテープで貼ってある気色の悪い傘なので盗まれずに済んだ。別れ際、へば、と、せば、のどちらか迷い、「せーので言いましょう」「せーの」「へば!」と言い合って別れる。とても楽しかった。

 帰宅。退屈そうにしている父を連れ出し、車の運転の練習に付き合ってもらう。西部工業団地のあたりを左回り、右回りそれぞれ7周ほど。対向車の通らない道で左折と右折の練習をひたすらした。免許を取得してから3年間ほど運転していなかったが手ごたえは感じた。帰路の運転の許可は出なかった。

 父の運転で総合運動公園へ。父が操縦するラジコンを走って追いかけ遊ぶ。まるで窓を開け放したときのような心地よさで風が吹き渡る。私は赤く染まらない夕暮れが好きだ。短く刈られた芝生に光が当たって色彩が往復するのを見た。ハンドルを握る父の手の動きを助手席で真似ながら帰宅。

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