生きてるだけで、ワーイ

鳴門煉煉(naruto_nerineri)の日記

名前がないまま

 

 予報は雨だったが朝は曇り。強気で自転車に乗ってパン屋。笑みを浮かべながらもマスクの下では流血している歯茎。血みどろで接客している自分を自分だけが知っている恐怖。このところずっと忙しい。

 19時半過ぎ終える。しばらく囲いがされてあった平和公園の噴水から水が出ていた。ようやく暖かくなったということか。

 スコールで野菜買おうと思ったがめぼしいものなく、他の客に紛れて何も買わず出る。

 家の近くのハッピードラッグへ。リポビタンD、終わった歯茎によさそうな高級歯磨き粉買う。「こいつの歯茎は終わってるんだな」と思ってそうなレジの店員。

 20時過ぎ帰宅。父と母に「物置の水槽見た?」と言われる。暗いので気が付かなかった。自分の部屋にいた金魚が死んだらしい。

 高校3年生の頃の文化祭で、1年1組の教室の真ん中に置かれたビニールプールの中で金魚が泳いでいた。べつに欲しくなかったのだが、その教室にいた1年生がひどく退屈そうにしていたので1匹もらった。水と金魚の入ったビニール袋を自転車のハンドルに引っ掛けて家へ帰り、ホーマックで水槽を買って戻ってきたらもう死んでいた。空の水槽だけあっても仕方がないからと、再びホーマックへ行き金魚を2匹買った、そのうちの1匹だった。

 1匹は室生犀星が魚拓を取ったという新潮社版の『蜜のあわれ』の表紙みたいなきれいな琉金で、もう1匹は縁日でよく見るような和金。自分は琉金のほうを気に入っていたのだが、高校を卒業して横浜へ働きに出ている間に死んだと知らせを受けた。後から調べたら異種を同じ水槽で飼うのはよくないという。狭い水槽の中で、和金が琉金をよく追い回していたから、自分は和金を憎むようになった。以降、母に世話を任せていた。初めの頃和金には「生まれ変わり」という名前をつけたが定着しなかった。実際彼はすぐに死んだ金魚の生まれ変わりではない。結局最後まで名前はなかった。

 今日、母が餌をやりに行くと金魚は水面に浮いていたそう。夕方、家の裏の砂利を掘り起こして父と母が死体を埋めてくれた。「穏やかな顔をしていた」と父が言うがそう思いたいだけではないだろうか。自分も金魚から憎まれていたかもしれない。ただ悲しさもなく。自分は二度と他の命を所有しないだろう。

 21時から金曜ロードショーで『スタンド・バイ・ミー』。母と台所でラスク作る。焼き上がり、台所に座って隠れて食べる母。父が寝た後で映画見ながら椅子に座りふたりして食べる。

 高級歯磨き粉で歯を磨く。チューブから絞り出すと赤い。白い歯磨き粉が血で赤に染まるよりはいい。