生きてるだけで、ワーイ

鳴門煉煉(naruto_nerineri)の日記

同期する唇

 

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 葬儀屋の陰から黒猫がつとつと…っとあるいてきて、それでも自分はいっさい、不吉であるなどと思わなかった。と、こんなのは、ばかな頭の遠まわりだ。自分は黒猫のすがたを見たのではない。不吉であるというたしかな印象を見たのだ。おろかな、知覚の時差にすぎない。おどろきのあまり小便をもらしたという嘘もこの際必要がない。

 運転席で力なく眠るタクシー運転手を殴ってみたい。衝動を許さないのが常に自分以外である自分が情けない。そしてその運転手は眠ってなどいない。

 態度の悪さを指摘されている。消去法で選択したそれに。

 生きながら地獄を味わい、天国を夢見るならば、死後には第三の。

 語らずに語る方法を、沈黙せずに沈黙する方法を、それぞれ模索している。語れば語りは嘘になり、沈黙すれば沈黙が真実になる。しかしそうではない、現実は。数回の頷きの中から選りわけることができるだろうか?自分は器用な人間を愛すことができない。

 今夜もまた眠らなければならない。自分は孤独を感じない。そういうふうに出来ている。そうではない。いつからか、それはいつでもよい。自分以外の人間が自分の孤独を生み出す。寂しくはない。ただこの感情の名を知らないだけだ。

 木と木の影がある。自分は影ばかり見ていた。これは自分が自分以外から愛されるときの覚悟に等しい。それは川のように流れるから—はじめて寂しいと思えた日のこと—今では憶い出すことができない。