生きてるだけで、ワーイ

鳴門煉煉(naruto_nerineri)

すし

 

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 金が入つたら、寿司を食ひに行くのが通例となつてゐる。

 市営バスをつかまへて街へ出る。近所のバス停から街までまつすぐ行くバスは、日にいつぽんしかないのである。ちやうど、庭に生つてゐる青いトマトのやうな色のバス。これには風情があつて良い。しかしこの頃、バスに変テコな広告があしらわれてゐる。写真や文字が車体を覆ひ尽くしてしまつてゐるのである。運営が厳しいのであらうが、これでは台無しといふものだ。バスが青くなかつたら、乗らない。五分遅れて青いバスが来た。

 外で食ふ寿司にはふたつある。回るのとさうでないのとである。食ふのは専ら回る方である。寿司が自転してゐる寿司屋もあると聞いたことがあるが、まだお目にかかつたことはない。大抵は公転軌道の上に寿司が乗つている寿司屋である。

 しかし今どきの寿司屋はあんまり寿司が回つていなくて寂しい。皆、座席に据へ付けてある画面から寿司を注文するので、平時は軌道が虚しく空回りしてゐるのである。ただ、注文した寿司も同じ軌道を辿つて来るから、店が混んでくるといつぱいの寿司が公転し始める。これが愉快である。

 座席には「白」とか「銀」とか「桃」とか「若草」とか色の名が付けられており雅である。注文した寿司はこの色の付いた特別な皿に乗せられて来るので他人の注文した寿司を間違へて取る心配も無い。画面をぽちぽちやりながら百円のうまい寿司を愉しんだ。

 腹がいつぱいになつてくると他人の寿司を見物しはじめる。見渡せば客席もいつぱいになり、寿司がつつかへるほど回つてゐる。しかしよく見れば「銀」の席の客が注文した寿司ばかり来る。うなぎ。いくら。終ひには大トロ三連符。ちくしやう、銀め、高級な寿司ばかり食つてゐやがる。どれも三百円の皿ばかりである。なんだか見せ付けられてゐるやうで腹が立つてきた。また来た。寿司屋で山盛りポテトなんか食ふつもりか。つまんで食つてやらうかと思つた。そもそも銀といふのが気に食はない。洒落臭いのだ。誰に云はれるでもなく回り続けてゐるコーン軍艦の皿を取って食つた。なんだかんだで、このやうな店ではコーン軍艦がいちばんうまいのである。銀の山盛りポテトを睨んでいたら道の折り返すところでポテトがいつぽん皿から落ちたので気が晴れた。

 帰りもまた青いバスだつた。家の近くまで行くバスが無いので古川の大きなバス停で降りてしばらく歩くことにした。広告の付いたバスが横切つて行った。帰つてきて庭のトマトを見るとほんのり赤くなつてゐた。