明日になったら、お母さんが死ぬような気がした。
夏は好きです。野菜がおいしいから。勤めを終えたあと、近くのスーパーに寄るのが大好き。野菜売り場は、本当にすてきです。だってトマトがずっしり赤い。こんなにすばらしいことが、ありますか。大葉は瑞まで光っているし。とうもろこしを見かけるたび、食べたいなぁと思うのですが、今年はまだ。
むかし献血にいったとき、お医者に血を褒められたんです。それが、わたしは、とてもうれしかった。
明日、お母さんが死ぬから、今日、料理を教えてもらわなくちゃと思ったんです。
お母さんのつくる料理では、きんぴらごぼうとなすの味噌炒めが好きで、きんぴらごぼう、自分ひとりでつくったこと、まだないから、朝、お母さんといっしょに、スーパーへ買い物に出かけた。ごぼうのほかにも、たくさんの野菜を買いました。きっと、今週は、豪華な食卓になります。
飼っていたクワガタが、今日死にました。むかし、アパートの前で弱っていたクワガタを、お姉ちゃんが助けたんです。「眠っているんじゃない?」と、わたしも弟も言ったけれど、お母さんだけは「死んでる。」とはっきり言いました。本当に、まったく、動かなくって、わたしは「変なの」って思いました。埋める場所を、考えなくてはなりません。
わたしは、包丁を使うのが下手くそだから、あまりに不格好な千切りのごぼうを見て、泣きそうになった。水にさらして灰汁抜きをしている間も。
仕上げには、炒りごまを散らす。わたしは、手を滑らして、鍋の中が、真っ白になる。雪が降ったみたいになった!そのとき、お母さんが、わたしの方を向いて、笑った。どうしてそんなに、ちいさく笑うのか。もっと、派手に笑いなよ。そんなんだから、みんな、お母さんがかわいいことに、気がつかないんだよ。この人は、まだ、死ぬには早すぎると思った。わたしは、台所に立ったまま泣いた。
夕飯だよう。起きてよ。ごはん食べてよ。
お母さんが、灯りのついていない部屋の椅子に腰かけ、わたしを呼ぶのでした。
もっと、お母さんに褒めてもらえるような、立派な娘でいたかった。
明日の朝ごはんが煮えたので、火を消します。